ラグジュアリーブランドの「ファーフリー宣言」はファッション界に何をもたらすか

 「ファッションは時代を映し出す鏡」。日々変化するファッション業界においてブランドやデザイナーは時に敏感に時代のムードを感じ取り、先読みすることが求められる。同時にラグジュアリーブランドと呼ばれる歴史あるメゾンは受け継いできた技術と伝統を継承し、顧客のニーズに応えるべく贅沢で華美な装飾を惜しまない。そんな時代の流れと伝統の狭間で今、ラグジュアリーを象徴する素材「ファー」を巡り、メゾンブランドは転換期を迎えている。

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■ラグジュアリー業界に一石投じる?グッチの決断
 
 イタリアのラグジュアリーブランド「グッチ(Gucci)」が先月、2018年春夏コレクションからミンクやコヨーテ、アライグマ、フォックス、ラビットなどを含むアニマルファーを使用しないというファーフリーを宣言した。すでに今年の初めから人気アイテムであるファー付きスリッパ「プリンスタウン」シリーズでは、カンガルーのファーをラムウールに変更している。
 
 現代のファッションシーンで、巷のトレンドを左右するほど影響力のあるラグジュアリーブランドがファーフリーの決断を下したことはファッション界において大きな意味を持つ。加えてグッチがイタリアのブランドであることも注目される所以だ。これまでファーフリーを宣言したブランドは「カルバン クライン(Calvin Klein)」や「ラルフローレン(Ralph Lauren)」「トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)」などのアメリカブランドが主。一方でイタリアは職人を多く擁し、精巧なクラフト技術に裏打ちされた毛皮や革製品を主力商品として扱うブランドが今も多く存在する。グッチでもミンクなどのファーコートは幾度となくランウェイに登場しており、イタリアブランドであることを鑑みても今回の決断はファッション界だけでなく一般の消費者にとっても興味を引くニュースだった。
 

■海外小売業のファーに対する対応
 
 「自分達の国の大手百貨店は経営方針上、ファーを扱っているブランドとは取り引きをしてくれない」。都内で開かれた欧州ブランドの合同展示会で、出店していたブランドの担当者がため息混じりに漏らした。環境問題や動物愛護への関心が高い欧州では、同様の方針を掲げる小売店が少なくないという。ラグジュアリーファッションEcの大手「ユークス ネッタ ポルテ(Yoox Net-A-Porter)」も同様に今年6月、ファー製品を自社サイトで取り扱わないことを発表しており、日本ではあまり感じることはないが、海外では小売が主導となりファーフリーを推奨する動きが少しずつ広がりをみせている。
 
 グッチが加入した「ファーフリーアライアンス(Fur Free Alliance)」には現在800を超える「ファーフリーリテイラー」が登録されている。ホームページでは国別に登録されている小売業者を検索することが可能で、日本では「H&M」や「Zara」VFコーポレーションの傘下ブランド「ザ・ノース・フェイス(The North Face)」や「ティンバーランド(Timberlnd)」などのファストファッションやパフォーマンスウエアの加盟ブランドが一覧に表示される。
 
 ラグジュアリーブランドではどうか。デザイナー自身も厳格なベジタリアンで知られる「ステラ マッカートニー(Stella Mccartney)」は、道徳的および環境的観点からファーの他にレザーやスキン、フェザーなどの動物由来の素材を一切使用しない「ベジタリアン・ラグジュアリーブランド」としてビジネスを展開している。動物性の素材を使用せず、研究を重ねた植物性由来の素材を使うことは「真のラグジュアリーである」という立場を明確にしているブランドの一つだ。ラグジュアリーブランドでは他にも「ヒューゴ ボス(Hugo Boss)」やアルマーニグループがファーフリーアライアンスに加盟。先日来日した「ヒューゴ(Hugo)」のブランドディレクターとの会話でファーフリーについて話がおよぶと「ファーを使う必要はない。我々が拠点にしているドイツは動物愛護に対して国民の関心が高いし、ブランドが今後ターゲットにしていく層は自らのライフスタイルを確立している顧客。ファーフリーはブランドの姿勢を理解してもらうのにいいステイトメント」と語っていたのが印象的だった。
 
 リアルファーやレザーは耐久性に優れ、手入れ次第で何世代にも受け継がれることもあり「長く使えて環境に優しい」という捉え方や、食肉の副産物としての有効活用という側面もある。しかし昨今の技術の向上により、エシカルな素材でも品質が改善され、動物愛護の観点だけではなく安定供給や扱い易さ、表現性などの理由から、あえてエコファーや人工皮革を使用したコレクションを発表するブランドも登場している。海外では人工皮革スエードの「アルカンターラ」、国内では東レの「ウルトラスエード」やカネカの「カネカロン」など、代替となる合成繊維の技術進歩も時代の流れを後押しする一つの要因なのだろう。
 
 このようにデザイナーの信念や国柄、表現上の理由で「ファーフリー」の道を選ぶブランドはあるものの、その選択肢はラグジュアリーの分野においては未だ少数派であることに変わりはない。
 

■未来のメイン顧客「ミレニアル世代」への根回し
 
 ファーは北極圏で生きる先住民族にとっての防寒着などの用途のほか、富を象徴する「嗜好品」としても親しまれてきた。ラグジュアリー消費は、アメリカ人社会学者ヴェブレンが「有閑階級の理論」でかつて提唱した「誇示的消費(Conspicuous Consumption)」の心理が働いているというが、希少品を身につけてひけらかすという"モノありき"の消費はもはや時代の流れと逆行しているのかもしれない。企業と有識者から構成される経産省主導の消費インテリジェンス研究会報告書(平成29年3月)によると、消費者の価値観は「共感できる商品・サービスを求める傾向」にあり「商品そのものの価値を重視する人よりも、商品の背景やストーリーまで含めて商品の価値だと考える人の方が多くみられる」という。これが実際の消費と結びつき、消費行動の原動力となれば、作り手・売り手の生産背景にまつわるストーリーはこれまでに増して重要性が高まり、ファッションの世界にも同様の対応が求められることになるだろう。
 
 グッチCEOのマルコ・ビッザーリ(Marco Bizzarri)は今回の決断について「ビジネス・オブ・ファッション(The Business of Fashion)」のインタビューの中で「ファー製品の年間の売り上げは1,000万ユーロ(約13億円)に相当するが、若い顧客層がその隙間を埋めているため、ビジネスへの影響は懸念していない」とコメントしている。実際、ファッションに特化した分析会社「エディテッド(Edited)」が今年発表した調査によるとグッチはミレニアル世代が最も購入しているラグジュアリーブランドで、2017年上半期の売り上げは前年同期比595%だったという。多くのメゾンブランドが昨今、ミレニアル世代に向けた商品やマーケティングを打ち出している中で、グッチはエシカル志向の消費意識を持つミレニアル世代の倫理観に訴えるアプローチを他ブランドに先駆けて仕掛けた形だ。グッチの今回の宣言がラグジュアリー産業のゲームチェンジャーとして業界のファーフリーの動きを加速させるのか、また将来メイン顧客に成長するミレニアル世代を見据えた長期的な施策としてどのような影響を及ぼすのか、今後の動向に注目だ。

 

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