2016/07/05
「クチュールにファッションの未来がある」 12年ぶりパリオートクチュールに参加の日本人、ユイマナカザト
2016/07/05
パリ オートクチュールファッションウィーク初日の7月4日、公式カレンダーの開幕を飾ったのが、日本人デザイナー「ユイマナカザト(Yuima Nakazato)」だ。
シグネチャーでもあるホログラム素材を使い、最新の技術を駆使した精緻なカッティングで光を反射する衣服が、宇宙空間を漂うようにゆっくりと会場を歩くモデルの動きに合わせて揺れる。人工の腕を垂らし、身体をデフォルメするような高いヒールを纏ったルックが印象的だ。クラシックな部分を残しながらも非常に未来的な、浮遊感のあるショーとなった。
日本人としては12年ぶりの参加となる中里唯馬氏に、パリでのランウェイショーと今後のクリエーションについて聞いた。
――どうしてパリでショーを?何か特別な意味はありますか?
日本ではなく、直接アントワープに行ってファッションの勉強をスタートしたので、ヨーロッパというのがバックグランドというか、出発点として自分の中にありました。現在は東京を拠点に活動していますが、ヨーロッパがもっと身近にあったら良いなとはずっと思っています。なので、パリでのショーは夢でしたね。
――オートクチュールを選んだ理由は?
オートクチュールというのが、一番自分に合っているなと思ったからなんです。ステージの衣装を年間数百体デザインしているんですが、一人ひとりの体に合わせて作る、いう作業が自分のやり方に合っていたので、それを世界に広げていきたいというのがあります。それから、この"一人ひとりの体に合わせた"という概念を、既製服と繋げていきたいというのもあって、オートクチュールに挑戦したいと思っていました。
――実際にショーを終えてみていかがでしたか?反応は?
制作の中で、やりたいことはすべてやって、ベストを尽くせたと感じています。今までの成果をコレクションの中に詰め込むことができたので、もう発表の前に満足していました。終わった後にはバックステージに沢山の方が来てくださって、インタビューなども受けたんですが、そこで、良い評価を頂けたのかなと実感しました。
また、ショーの後にツイッターやインスタグラムといったSNSで多くの反応を頂いたんです。昨日からずっとリプライの通知も鳴り止んでいなくて。SNSはブランドにとっても重要なツールで、こちらから発信する情報はある程度コントロールしていますが、なるべくフラットな、相互的なコミュニケーションが取れればと思っています。
――ご自身のブランドや、クリエーションについてお話しください。
まずはホログラムという素材なんですが、これはブランド設立当初から使い続けているシグネチャーのような存在です。これはオリジナルの素材で、今から6年前に始めて東京でショーを開催して以来ずっと開発を続けています。現在はクオリティーも上がってきて、バリエーションも増えていますね。洋服だけでなく、バッグなどのアクセサリーにも使用します。自然の風景や自然現象、光の変化といったものをホログラム素材で毎シーズン表現しています。
また、キーワードとしては"身体性"というのもあって、身体と洋服との関係を探求していきたいと思っています。例えばハイヒールとか、3Dプリンタを使って人工の腕を作ったり、以前は男性モデルに女性のコルセットを着けてジェンダーに対する問いを投げかけたりもしました。身体と、衣服を通した社会との関わりのようなものをデザインしています。
そしてもう一つ、"テクノロジー"も非常に重要な要素になっています。今回のコレクションでは、カッティングプロッターという細かいデザインを切り抜ける機械を使って、小さなパーツを作り、そのユニットを連結させて一つの衣服を作り上げました。更に、その上に別の種類のプリンタでグラフィックを印刷したりしています。それから、人工の腕ですが、これは実際に人の体をスキャンしてデータをデフォルメした上で、それを3Dプリンタで出力したものなんです。
今回だけでも3種類プリンタを使用していますが、このように最新のテクノロジーを伝統的なファッションの中に取り入れていきたいと考えています。
――今後の海外展開についてどうお考えですか?
オートクチュールファッションウィークについては、できれば今後も継続してショーを行っていきたいと考えています。それと並行して、既製服の方も始めるつもりです。現在アクセサリーについては既に展開していて、パリと東京のショールームに展示していますね。
それから、簡易的なオーダーメイドのライン、セミクチュールのようなものも、オートクチュールと同時にやっていければと思います。原型を用意して、それを一人ひとりの顧客の体に合わせて調整する、といったような。
国別には、アジア、ヨーロッパを2つの軸として展開していく予定です。アジアは、特にアクセサリーや既製服などでは主要なマーケットになっていますね。ヨーロッパでは、パリを中心に考えています。
――フランスのマーケットについてはどう思われますか?
そもそも小さなブランドにとって、世界に向けて一気に発信していくというのは、サイズやテイストの面でも難しいんですね。ただ、セミオーダーメイドという形であれば、サイズやちょっとした趣味の違いなどに対応していけるのではないかと考えています。なので、特にセミオーダーでは、これまでの既製服とは違って、国ごとに別々の戦略を考えていくことはあまり必要が無いのではと思いますね。
まずはパリのオートクチュールショーでブランドの世界観を伝えていきながら、セミオーダーメイドで地域に限定されない展開をしていきたいです。
――セミオーダーメイドと卸売りの関係は?
やはりショールームなどを通じた卸売りに関しては、最初はアクセサリーや小物類から始めることになるとは思いますが、将来的には「NikeiD」のように、カスタマイズのためのノウハウやシステムごと卸売りするような形が実現できれば良いですね。
――パリはまだ"ファッションの都"であり続けていると思いますか?
そうですね。やはり、オートクチュールに対してファッションの未来を感じています。時代と共にオートクチュールの在り方も変わってきていますが、従来の既製服のように、一つの型を最大多数に供給する、というビジネスではなく、一人ひとりに合わせた服を作っていく、というファッションの原点がオートクチュールですね。そして、この考え方にこそ未来があると思っています。コストの問題は時代と共に移り行くものですが、テクノロジーも進化していますからね。一人ひとりに合わせた服作りをしていきたいという考えを持っているので、そうしたシステムを発展させていきたいです。そういった意味でも、やはりオートクチュールを有するパリが中心になってくると思います。
――昨今のファッション業界の変化については?
SNSやインターネットの発達と共に、市場が変化していくのは当然のことだと思いますし、ポジティブにとらえています。その中で自分も、新しい産業の在り方や、ものづくりの背景を模索していきたいですね。それが今回のオートクチュールへの参加という部分にも繋がってきています。
"see now, buy now"については、今のところ、ブランドの規模の問題などもあって、あまり興味を持っていません。東京では、業界の中ではそういった話も出てきていますが、一般の中にはまだまだ浸透していない印象です。それに、日本では東京ガールズコレクションなんかが結構前からあって、見てすぐ買えるファッション、という概念はそこまで目新しいものではない。そこが、クリエイティブなファッション産業とリンクしてくるのは、まだまだ先だと思います。
――伝統工芸や伝統素材といったものも取り入れられていますよね?
伝統技術や伝統素材を求めて、日本全国の工房を巡ったりもしてきました。技術や質は素晴らしいんですが、高齢化や後継者不足、そして大量生産ができないといった状況が災いして、中々難しい産業であることも事実です。しかし、一点ものを作るオートクチュールや、少量生産のラインであれば、活かせる技術というのは本当にたくさんあります。そういったものを世の中に伝えていきたいと思っていますね。今、江戸切子と漆を使ったアクセサリーも数量限定で展開しています。
フランスの伝統工芸に関しても、もっと勉強して知識を深めていきたいですね。今後は現地のものづくりの現場にも触れていくつもりです。
伝統工芸というのは、確かにブランドのフューチャリスティックなスタイルに必ずしもマッチするものではないのですが、そうした相反するものを融合するというのがデザインの哲学でもあります。
不許複製・禁無断転載
© 2024 FashionNetwork.com