2017/09/30
パリ ファッションウィーク:「イッセイ ミヤケ」の差異と反復
2017/09/30
「イッセイ ミヤケ」がパリのグランパレで発表した18年春夏コレクションでは、メゾンのアイコニックなプリーツを軸に、素材の進化を「A Pieces of Memory(記憶のかけら)」というテーマに落とし込んだ。
会場となるグランパレでは現在、伝説的写真家のアーヴィング・ペン(Irving Penn)の展覧会も行われているが、三宅一生とペンとの10年以上にも及んだコラボレーションは有名だ。
9月も末というのに、パリでは珍しい夏日。厳重な警備も相まって招待客は会場外で長時間列をなすことになったものの、ようやく腰を下ろした客席では、アイスランドの景色に着想を得た涼しげなコレクションを目にすることができた。
ショーが始まると、ランウェイの端に壁のように設置された幕がボコボコと不規則に膨らみ、火山やマグマといった荒々しい自然の動きを表現する。そこからおもむろにモデルが走って姿を現し、体を縦横無尽に動かすダンスパフォーマンスを披露した。一見ジオメトリックで構築的にも思えるブラックのオーバーサイズの洋服は、モデルが体を動かすことで表情を変え、テキスタイルの溝が広がって地の白が顔を出す。これは「スチーム ストレッチ」と呼ばれる技術を進化させたもので、蒸気を当てることで収縮しプリーツを作り出すが、プリントの工程で平らにしたことにより、柔らかさや軽やかさを加えたという。
「スチーム ストレッチ」を用いたルックでは、ゆったりしたトップスやロングドレスなど、今までにない落ち感がしなやかに体に沿ったシルエットを形づくる。歩くたびに軽やかに揺れることで、ベースの色とプリントとが表情を変える様も目を引いた。
技術の進化により「スチーム ストレッチ」へのプリントが実現したというが、今回のコレクションでは、連なる岩や氷河といったアイスランドの景色が繰り返し用いられている。おなじみの「ベイクド ストレッチ」素材にも広大な自然が描かれ、今まで弾力のある曲線が特徴だった同素材がよりソフトな表情に進化したことにより、記憶の揺らぎを写し取ったような詩情を加えていた。
また、新素材である「キューブ」はスクエア型の布を組み合わせてできたもので、着用すると一つ一つの四角が立体的なフォルムを構築する。首回りの立体的かつ鋭角的なドレープが新鮮だった。テーマである「記憶の欠片」を象徴する素材だ。
「ものを作る原点は、幼い時の記憶や旅先の思い出。そういった頭の中の記憶をベースにしてアイディアが発展していくと考えている。それを視覚化したかった」とデザイナーの宮前義之。2012年春夏コレクションから就任し、6年目となる。
絶え間なく変化が起こるファッションにおいて、「我々にとっては続けることも大事」だと話す。「80年代後半に発表して以来、ずっと"プリーツ"を作り続けてきた。ご飯と一緒で、美味しいものは毎日食べたい。そういうものを目指していければ」。
毎シーズン素材の進化を見せつけながらも、それを「プリーツの延長」と捉え、過去からの繋がりを常に意識する。太古の昔から今日まで続くアイスランドの自然のように、変わらない”プリーツ”の繰り返しが少しずつ差異を伴って作り出した、ストイックな新しさが垣間見えた。
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