2016/03/17
三越伊勢丹HD大西洋社長に聞く(上) 海外展開と今日の百貨店業界
2016/03/17
パリにアンテナショップをオープンする三越伊勢丹ホールディングス。企業メッセージに「this is japan.」を掲げ、日本文化を国内外に発信していく事業も進めている。日本百貨店協会の次期会長にも選任された大西洋社長に、今後の国内外での展望を聞いた。
――今回のアンテナショップは、欧米進出の新しい戦略の一環でしょうか?
はい。ヨーロッパではパリとロンドン、アメリカではニューヨークにいずれ出店できればと考えています。しかし現実問題として、ニューヨークとロンドンは不動産が非常に高く、現状では常設店の開設が難しいところもあります。今回はパリで丁度良いお話を頂いたので、アンテナショップの出店を決定しました。
――アジアと欧米とでは展開の仕方も変わってくると思いますが……
アジアではもう少し規模の大きい、いわゆる百貨店レベルの業態を展開していますし、今後もこの形で拡大していくことができると思います。例えば、マレーシアには海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)と共同で1万平米のショッピングセンター、「クアラルンプール伊勢丹LOT10店」を出す予定です。一方ヨーロッパでは、百貨店のような業態での出店は難しいとは思いますが、当社の暖簾を使って日本の良さを現地の方々にご紹介できればと考えています。
――1月にはパリで合同展示会「プルミエールクラス」にも出展されましたが、プライベートブランドなど卸事業の海外展開は?
シューズブランド「ナンバートゥエンティワン(Number Twenty-one)」の卸に関しては、今すぐにでもやりたいと思っています。卸事業を進める中で、ブランドとしての地位が確立されてくれば、ショップをという可能性もあるかもしれません。
――世界の百貨店業界についてどのようにお考えですか?
歴史的に見ると、ヨーロッパの百貨店が最も古く伝統がありますね。アメリカの場合は再編を繰り返して、現在はグループが1つや2つといったところにまで統合されてしまっています。日本も4社ほどになってしまいました。そもそも、各国によって百貨店の定義というのは少しずつ違ってきますから。ただ、最近のリモデルを見ていると、やはり進化しているなという印象を受けます。日本の場合、百貨店の規模は段々小さくなってきてしまっていますし、アメリカも厳しい状況に思われます。やはり、ヨーロッパの百貨店の存在価値が一番高いのではないでしょうか。
――日本国内の百貨店業界と伊勢丹の現状について
日本の百貨店市場は、10年前には10兆円あったものが現在では6兆円規模になっていますので、今日では企画・生産から販売までを一貫して行う、いわゆるSPA(製造小売業)に少しずつシフトしていく動きがあります。百貨店という業態自体については、文字通り「何でも揃う」はずの店舗ですが、「もの」だけでなく、環境や空間といった「こと」が非常に重要になってくると思いますね。日本では、「もの」と「こと」の消費が半々といった状況になってきています。商品を置けば売れるという時代は終わって、「こと」や、それこそ「食」のような分野が注目を浴びてくるのではないでしょうか。ただ、現在日本にある240店舗の百貨店のうち、約7割が赤字というのが現状です。特に地方はそうですが、全体として、日本の百貨店がかなり厳しい状況に置かれていることは事実です。当社の伊勢丹新宿店は売上・入店客数共におそらく世界一を誇るのではないかと思いますが、幸いこの店舗を所有していることで、大きく助けられている部分はありますね。
――ジャパニーズファッションの海外進出について
三宅一生さん、山本 寛斎さん、川久保玲さん、山本耀司さん、といった世代以降、最近は漸く「サカイ(Sacai)」の阿部千登勢さんなどが出てきていますが、それでもまだ海外に本格進出している人は少ない。経済産業省などを中心に支援する動きはあっても、まだ軌道に乗っているとは言い難いですね。ですから、やはり民間と政府とが、もう少し進んだ対策を行わなくてはいけない。まずは東京コレクションなど日本国内での地盤をしっかりと固めて、人材を育成するところから始め、そこから海外に進出していけるような環境を作るべきではないかと思います。我々も現在、少しずつそういった取り組みを進めています。
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