2017/07/06
パリ オートクチュール:「ユイマナカザト」、"万人のためのオートクチュール" 先端技術が見せるファッションの未来
2017/07/06
パリ オートクチュールのゲストデザイナーとなって3シーズン目となる「ユイマナカザト(Yuima Nakazato)」。今回のコレクションでは、3D技術を用いた全く新しいオートクチュールの概念を提案してみせた。
デニムジャケットとパンツ、クラシックなフィットのイブニングドレスや、レザージャケット、MA-1、ニュールック風シルエットのアンサンブルなど、一見するとベーシックなアイテムは、しかし近くで見ると細かなピースを繋ぎ合わせてできていることがわかる。
“3Dユニット構造テキスタイル”と呼ばれるシステムを用いて、デジタルパターンを元に生地を小さなユニットに裁断。そこから服を「縫う」のではなく「組み立てていく」という工程で制作されたものだ。パズルやレゴブロックのようにも思われるが、体のラインにぴたりと沿ったシルエットはもちろん、スカートのフレアや落ち感なども不足なく表現している。
前回、前々回は、硬質で厚みが少ないホログラム素材を用いていたが、今回進化した技術により、コットン、ウール、レザーといった通常のテキスタイルで「普通の」服を作ることが可能になったという。特に天然素材は、ジョイント部分がほつれたりと扱いが難しく、樹脂加工をして厚みや質感を整えるなど試行錯誤の末に実現した。
ステージ衣装など「一点もの」を手掛ける機会が多かったというデザイナーの中里唯馬は、それを「もっと多くの人に届けられないかと思った」と話した。ユニットは一つ一つナンバリングされ、DNAのように二つと同じものはない着用者固有のラインを作り上げる。
現段階ではまだ組立作業に人の手が必要で、どうしてもコストが嵩むことが課題だ。しかし将来的には、万人のためのオートクチュールを市場に送り出したいという。
コレクションのスタイルは50年代にインスピレーションを得たもので、戦後に華やかなオートクチュールが復活したと同時、大衆の服装としてジーンズが台頭したことに目を付けた。オールデニムのルックやカクテルドレスだけでなく、両者を組み合わせたドレスや、パッチワークジーンズにプリーツを垂らした「バー」風シルエットの異素材ジャケットをスタイリングするなど、ハイブリッドなルックも登場。クチュールの要素とワークウェアとのミックスは、一人ひとりの体に合わせるという「究極の個別性」と、すべての人間が分け隔てなく自分だけの衣装を手にするという「究極の普遍性」、二つの共存を目指す中里の新しい”クチュール”を象徴しているようでもある。
また、今回はアクセサリーを排しウェアに集中したコレクションとなったが、ドレスには富士フィルムと共同で開発した半透明な特殊素材を用いたフラワーモチーフをあしらうなど、装飾にもテクノロジーを導入している。
オートクチュールの生みの親と言われるシャルル・フレデリック・ウォルト(Charles Frederick Worth)は、それまで完全受注制だったドレス生産の工程を改革、ベースとなるデザインを定期的に発表し、顧客に応じてカスタマイズするという"産業"としてのファッションを作り出した。一人一人にフィットした衣装をより多くの人へ、というコンセプトは、オートクチュールの原点とも言えるだろう。
「ユイマナカザト」は現在、主に国内でアクセサリーや小物を中心に展開している。チームの白衣までオリジナルデザインにこだわったという中里。今はまだ準備段階の一般向けオートクチュール構想だが、将来的なプランについて尋ねると、「オンラインで受注して、各地のショールームと連携するようなシステムを考えている」と具体的に語ってくれた。
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