2019/09/30
パリFW:「ビューティフルピープル」、24時間寄り添う服
2019/09/30
「ビューティフルピープル(Beautiful People)」は、ここ数シーズン発展させてきたテーマ「Side C」をさらに拡大し、より繊細で多角的に表情を変える複雑なコレクションを披露した。
舞台となったパリ国立高等美術学院のホールには、時計が時を刻む音が響く。薄暗い照明の中、オープニングに現れたのはデザイナーの熊切秀典だった。モデルを引き連れた熊切は、他の数人と同様にその場でドレスを脱がせ、裏返して再び着せつける。最初に重ねていたのはフロントがブラック、バックがプリントのチュールドレスだったが、同じピースが今度はインナーと同じ夕暮れ時のグラデーションのプリントとなって前身頃に現れた。さらに、今度は袖を抜いてベストのようなレイヤードをのルックにも変化し、短い間だけでも数通りの着方がデモンストレーションされた。
その後従来のランウェイが始まるが、続くアイテムも一見ベーシックに見えてどこかに違和感があり、その正体を突き詰めると見慣れない場所に開いた"穴"や複雑なパーツの重なり、背中にぶら下がった別のピースの存在に気付く。
アイコニックなライダースとロングのレザーコートがドッキングされたものも目を引いたが、やはり今シーズンはより薄く体に張り付くような素材やシアーな質感が目立つ。チェックのキャミソールドレスの上に重ねた薄いチュールは、次のルックでは内側に回ってインナーに。レース編みのサマーニットは半袖部分の後ろから手が出ていたりと、一見するだけではどういう構造になっているのか読み解けない複雑な仕組みだ。
ショーの後に熊切デザイナーが手に取って説明してくれたごく薄いニットは三層になっていて、それぞれのパネルの剥ぎ方が"穴"を作ることで何通りにも重ねて色を作り、何通りにも捩じってシルエットを調整することができるという。
また、織り方にもこだわったという透け感のある素材を組み合わせることにより、シルエットだけでなく色のバリエーションも増える。何度も登場した夕暮れ時の空のグラデーションプリントは、そんなコンセプトを要約しているようだ。「24」をキーワードにした熊切は、刻一刻と移り変わる時間や空と同じように細かく表情を変える衣服を作り上げた。
「一日の様々な場面に対応するというのはもちろん、人間の心境や気分というのも変わるもの。それに合わせられるような服に」と先シーズンに続き内面に寄り添う繊細な感性を見せ、自分なりの「多様性」を追求したと話してくれた。
ショーでは"映える"スタイリングをフィーチャーしたが、日常でも着られるよりベーシックな着方や、ナイトアウト用のルックなど、実に「24通り」の着こなしが楽しめるという。一方で、「オーセンティックな素材」と「ベーシック・クラシックなアイテム」にこだわり、「行き過ぎないよう」地に足のついたクリエーションを心掛けた。
「今の時代の脱構築というのは、機能性も含めていると思う」と話す熊切デザイナー。今回のショーピースにも「機能性」をプラスしたという。今シーズンから本格ローンチしたメンズコレクションや、よりウェアラブルな「Side C」を追求したプレコレクションなどにもその美学は表れている。
今年3月の東京ファッションウィークでは経済産業省による"ポストサカイ"の期待も一心に背負った印象の「ビューティフルピープル」。パリでは3年目を迎え、クリエイティブな面での知名度は向上しているが、アジア圏以外の販路はまだこれから開拓の余地がある。ショーでは発表しきれない「Side C」の魅力や、クリエイティブでありつつウェアラブルでコマーシャルな側面などをどこまでアピールできるか、これからの展開にも注目される。
不許複製・禁無断転載
© 2024 FashionNetwork.com