2019/06/20
パリ メンズ:「アンダーカバー」、自らの内に潜む影
2019/06/20
トロピカルなプリントが目につく今シーズンのメンズランウェイで、「アンダーカバー(Undercover)」はあえて暗がりから這い出てきたような黒一色のコレクションを披露した。
ベルシー体育館に十字を描くように設置されたキャットウォークは黒く、ぼんやりした照明と相まって暗闇に沈む細い路地のように頼りない。
不穏な雰囲気でスタートしたショーは黒のスリークでモダンなテーラードに続いて、クモの巣状のプリーツを施したシャツ、吸血鬼シルエットのアップリケが素材違いの黒で浮かび上がるジャケットが登場。
さらに、2018年春夏コレクションでも見られたシンディ・シャーマン(Cindy Sherman)のポートレイト作品が、今回はやはりモノクロで、シャツやスウェット、ブルゾン、サファリジャケットなどにあしらわれた。それだけでなく、レザーのバッグのエンボスモチーフや、トートバッグ、バックパックのプリントなどになってシャーマンは何度も繰り返し現れる。
シンディ・シャーマンというアイコンについては、「静かな中に潜む狂気」が気に入ったという高橋盾。「自分が着たいものを考えたとき、余計な要素、余計な色を排除しようと思った。インビテーションの詩にあるように、自分の中にある狂気のようなものを洋服で表現したかった」と話す。インビテーションには、「私は獣、天使、狂人を私の内に抱えている(I hold a beast, an angel, and a madman in me)」とディラン・トマスの一節が記されていた。
黒一色のコレクションは確かに不気味だが、ホラー映画や『時計仕掛けのオレンジ』のようなシアトリカルな表現とはまた一味違い、エレガントで洗練されたモダンな洋服がベースにある。ナイロン使いや適度にスリムなシルエットは、日常にも取り入れやすいベーシックなメンズワードローブとも呼べそうだ。そんな日常で、ふとした拍子に着るものの内側から湧き上がる何か。それが洋服に浮き出たような、静かに潜む闇をウィットに富んだやり方で表現してみせた。
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