競争激化のファッション業界、若手デザイナーが生き残るには?

 デジタル技術の発展やSNSの台頭、中国人やミレニアルズを中心とした新たな消費者に、ECによる新たな店舗のあり方。ファッション業界はここ数年で大きく変化したが、競争がますます激化するこの世界で若手デザイナーやスタートアップ企業が生き残るのは容易ではない。こうしたテーマについて、イタリアのトリエステで開かれたファッションコンテスト「ITS(International Talent Support)」で出会った専門家やデザイナーに意見を聞いた。

Shie Lyuの作品 - ITS2019

 「自分自身のブランドでキャリアをスタートさせたいというのは、相変わらず若手デザイナーたちの強い願望のようです。これは15年前と同じ。一方で、アプローチの仕方は進化している。昔であれば、卒業後にどういった方向へ進むべきか、自分で理解するのに時間を要した。その点では今より未熟だったと言えるでしょうね。現代の学生は、自分たちが直面するであろう問題に対して高い意識を持っています」と語るのは、2002年に「ITS」を創設したバルバラ・フランキン(Barbara Franchin)だ。
 
 「同時に、我々がデザイナーを評価するやり方も進化しています。デジタル化した世界では、すぐに画像を見ることができる。審査にしても、デッサンを提出して終わりというわけにはいきません。一つのコレクションがほぼ仕上がっていないといけないのです。以前はまずプロジェクトの内容を審査していました。しかし今では、より具体的なものが求められる」と同氏は続ける。
 
 デザイナーの背景も変化しているという。「ロンドンのセントマーチンズやアントワープ王立芸術学院が独占していた時代は終わりました。他のヨーロッパ諸国も同じ。今日では、アジアのデザイナーが台頭しています。今年ファッションとアクセサリー部門では22組が選ばれましたが、うち中国が6組、日本が4組、韓国が1組と、半数がアジア出身でした」と明かした。ちなみに、グランプリを勝ち取ったのも中国出身のダオユアン・ディン(Daoyuan Ding)だった。
 
 "昔ながらの"経歴を持つドイツ人デザイナー、ミハエル・カンプ(Michael Kampe)はこう話す。アントワープ王立芸術学院を卒業し、2010年に「ITS」でディーゼル(Diesel)賞を受賞した彼は、インターンしていたデニムメーカーでジュニアデザイナーに抜擢、そして「スコッチ&ソーダ(Scotch & Soda)」や「ヒューゴ・ボス(Hugo Boss)」で経験を積んだ後、昨年「リー(Lee)」のアーティスティックディレクターとして起用された。「個人的に、インターネットが供給する情報はクリエーションの問題であり足かせだと思っている。何か思いついたとしても、ウェブで検索すれば、誰かが同じことを先に始めているのがすぐに見つかるんだ!フラストレーションが溜まるし、やる気をなくしてしまう。実際、知らないでいられるというのは幸運なことだよ」。
 
 一方で、サステナビリティやインクルーシビティといったテーマに対しては、「若手デザイナーにとって大きなチャンスになる」と肯定的だ。「一歩進んだ取り組みができるし、クリエーションの刺激になる。ファッションをやりながら、社会や文化にリアルな影響を与えることができるんだ。良い商品を作りながら、環境を改善するにはどうすれば良いかを考えられる。新しい世代のデザイナーには、少ない素材とエネルギーでファッションを作り出す術が必要だ。同時に、社会に対するメッセージ性や大きなインパクトも考慮しなければね」。

Kouto Rafaelのルック - ITS 2019

 現代のクリエーションにとって、環境や社会への取り組みは重要な要素となっている、以前は美的な基準が第一だった。「ファッションは世界で2番目に環境負荷の高い産業だ。どの国でも若いデザイナーはこの事実を意識している。現代では多くのデザイナーがこの問題を念頭に置いていて、これは良い傾向だと思う」と「ワイプロジェクト(Y/Project)」のグレン・マーティンス(Glen Martens)。「彼らはコレクションに用いる素材にも非常にこだわっている。生産手段も非常に手工業に近いものだ。ボリュームは二の次で、これは衣服の構造、テーラリングといったものが第一にあった僕らの世代とは違う」。
 
 しかし、名が知られるようになるまでの道のりは長く、険しいとも話す。「どの世代にとっても非常に難しいことだ。ファッション業界は停滞しきっている。頭角を現すには、まず自分を信じること、そして賢くなければいけないし、常にアンテナを張っている必要がある。でも同時に、自分に正直にいなければね。嘘をつかずに突き進むべきだ」。「結局、人によって違うんだ。成功するには、その人がユニークだったり、良いツテがあったり、色々な理由がある。様々な要素が合わさって、そこに運も加わってくるからね」。
 
 「イメージが支配する世界で、僕のやっているようなブランドがここまで注目されるとは思っていなかった」と明かすマーティンスの「ワイプロジェクト」は、大胆で革新的なクリエーションが大きな成功を収めている。しかし一方で、事業規模の拡大にともなう問題にも直面しているという。「非常に微妙な時期で、生産量も増えている関係からより大きな工場と取引する必要が出てきた。それでも、大規模な工場にとっては僕らはまだまだ小さい。僕らの商品は生産過程が複雑なものが多いし」。
 
 ブランドのビジネス支援やショールーム展開を行うトゥモローロンドン ホールディングス(Tomorrow London Holdings)のステファノ・マルティネット(Stefano Martinetto)CEOは、「音楽と同じく、ファッションの市場は二極化しつつあると感じる。巨大ラグジュアリーグループは自社の販売網を通じて直接小売に切り替えているが、その一方で、大手ブランド以外を扱うマルチブランド店を再評価する動きもある」。
 
 大手メゾンが卸を制限するなか、セレクトショップなど複数のブランドを扱う小売店は新進気鋭ブランドを多く取り入れるようになり、インディーズレーベルを取り上げたスペースも拡大しているという。「こうした背景もあって、今は若手デザイナーがやりやすい時代だと思う。ただし、ユニークな視点を持ち、プロジェクト実現のために昔よりも大きなキャパシティを備えていなければいけないけれどね」と同氏は締め括った。

Annaliese Griffith-JonesのクリエーションITS2019

 実際、今のデザイナーに求められるのは経営者としての素質だ。「才能は必要。でもそれだけでは足りない。一番大事なのはグローバルな視点」と人事コンサルティングファームFloriane de Saint-Pierre et Associésのヴァレンティナ・マッジ(Valentina Maggi)は指摘する。「今の時代、アーティスティックディレクターには、完璧なプロダクトとコレクションだけではなく、一つのブランドの基盤になるようなはっきりしたビジョンが求められている。それが自分のブランドであろうと、そうでなかろうと同じ。"ブランドアクティベーター"と呼んでも良いと思うけれど、ビジュアルコミュニケーションやSNSも含めて、ブランドを盛り立てる役割を担っています」。
 
 「自分のブランドを立ち上げるにあたって、新しい世代のデザイナーには最初からビジネスを行う機会がある。昔はショールームやPR事務所を通さなければいけなかったけれど、インターネットのおかげで消費者に直接アピールできるし、仲介業者なしで販売することだって可能になった。そこから上手く大手の店舗やパートナーを見つければ、早いスピードで成功を掴める。こうして生き残りのためのシステムを構築するんですね。でも問題は、コレクションにだけ集中しているデザイナーがまだまだ多いということ」と語った。
 
 ファッションコンテストに加えて、最近ではインキュベーターやビジネスサポートプログラムなども増えてきた。世に出たばかりのデザイナーでも、昔に比べれば支援を得られる機会は多い。しかし、こうした機会を掴むことすら難しいという。「本当に競争が激しい。気付かない人も多いんですが、誰も待ってはくれないんです!アドバイスを聞けない人に多いですね」とピッティイマージネ(Pitti Immagine)でチューター&コンサルティング部門の責任者を務めるルカ・リッツィ(Luca Rizzi)。
 
 マッジ氏と同様、プロジェクトの完成度が重要だと話す。「ストーリーテリングやコミュニケーションの影響は大きい。商品だけではありません。一貫した姿勢で、ブランドのスタイルを示す必要がある。若い人の中には時々、ちょっとした思いつきと単一の商品だけでブランドをスタートする人がいます。もちろん最初からすべてを知っていたり完璧であったりする必要はない。それでも、確固たるビジョンと、少なくとも今後3~4年間の計画は用意するべきだし、そうした広いアプローチが求められている。クリエーションからイメージまで、多角的な才能を持ったものが成功するのです」。
 
 「デザイナーにとって一番良くないのは、しびれを切らすことだ。準備ができていないのにブランドを始めたいという誘惑が最大の敵」とデザイナーのアイター・スロープ(Aitor Throup)は語る。「ブランドを立ち上げるというのは、商品、コミュニケーション、販売網の3つのバランスを見つけるということ。特に販売するプラットフォームの選別は重要だ。強いメッセージ性を持った良い商品を開発する必要がある。そして『なぜ?どうやって?何が?』という質問に明確に答えられるものであること。少しでも不明瞭なら、それはブランドではない」と締め括った。
 
 

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