2020/01/20
パリ公式デビューの「ダブレット」、キッチュなファミレス文化を世界に
2020/01/20
井野将之が手掛ける「ダブレット(Doublet)」が、パリ メンズファッションウィークの公式日程に初参加した。日本固有の業態である「ファミレス」を完璧に再現した会場では、キッチュで捻りのきいた「ダブレット」らしいアイテムがパリならではのモチーフや多様性と出会い、プレイフルなムードの中で披露された。

入口のウィンドウには外国人観光客にも人気の食品サンプルが展示されていたが、「カニコロッケ €850」、「ビール €320」と、円であれば適正な価格をユーロで表示するなど、行き届いた"違和感"の演出が心憎い。
日本人なら聞き覚えがあるだろう入店チャイムが響く中、ファミレスの定番であるフローズンマシンでは「ユズ」や「抹茶」のドリンクが供され、各国からの招待客も興味を引かれている様子だった。チープな椅子とテーブルのセットには写真入りのメニュー表が立てられ、英語、フランス語、韓国語、日本語と、様々な言語のポスターが。
「ただいま開店です」とのアナウンスで現れたモデルたちは、それぞれが奇抜な食品サンプルを手にウォーキングする。キャスティングは性別、人種、体型、年齢を問わず多彩で、一度カメラの前でポーズをとったその後は、皆が席について「食事」と談笑を楽しんでいた。バックには「We are the World」が流れる。

キモノスタイルのジャケットはインナーからコックシャツやナプキンが覗いていたり、デニムにパンや寿司のアップリケをあしらったかと思えば、ドリームキャッチャーにナバホプリントなどネイティブアメリカン風のモチーフや、日本風の"カワイイ"カルチャーにインスパイアされたキャラクタープリント、ハワイアンシャツもミックス。ありとあらゆるジャンルの料理がメニューに混在するファミリーレストランにぴったりの、エクレクティックなコレクションとなった。
中でもパリを意識したエッフェル塔のモチーフは、典型的なフレンチスタイルのボーダーセーターやアウターの背中にも何度も登場している。オーバーサイズのボアジャケットの背中に描かれたエッフェル塔には、「Paris」ではなく「Peinture(絵)」の文字が添えられるなど、アイロニーも忘れない。
また、プラモデルのパーツを切り離す前のようにランナー枠がぶら下がったレザーのバッグも目を引いた。枠で繋がった小さなパーツも、それぞれがポシェットのようになっている。

今は無き「コレット(Colette)」の元クリエイティブディレクター、サラ・アンデルマン(Sarah Andelman)と挨拶を交わしていた井野のコメントは、「子供の頃の記憶に強く結びついているのがファミレス。皆が笑ってくれて、それが記憶に残れば」と気負いのないものだ。ちなみに、使用した食品サンプルはその道のコンクールで賞を取った会社のクリエイティブな作品だという。
ショー向きのブランドではない、とのスタンスを見せることもあるが、「今回もショーというよりインスタレーションとの融合。良いところを組み合わせて、そうした着地点を見つけていければ」と今後もパリでの発表と、新しい形式の模索に意欲を見せた。
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