2019/04/29
インタビュー:「クロエ」ナターシャ・ラムゼイ=レヴィ
2019/04/29
「クロエ(Chloé)」のアーティスティックディレクターを務めるナターシャ・ラムゼイ=レヴィ(Natacha Ramsay-Levi)が、南仏で開かれた第34回「イエール国際モード&写真フェスティバル(Festival International de Mode et de Photographie de Hyères)」の審査員長を務めた。クリエーションの秘密やデザイナーという職業、今日のファッション業界、そして「クロエ」での今後について聞いた。

- (パリの専門学校)スチュディオ・ベルソーを卒業後、「バレンシアガ(Balenciaga)」と「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」で15年間二コラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquièr)の右腕を務めていらっしゃいました。「クロエ」にはどのような心構えで挑みましたか?
「クロエ」で手掛ける最初のコレクションは、メゾンの好きなところを詰め込んだラブレターのようなものを作りたいと思っていた。だから、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の絵画的なドレスだとか、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)のブロダリーアングレーズ(アイレットレース)だとか、色々な要素を取り入れたの。私が純粋に「クロエ」らしいと感じるものをね。このコレクションは私にとっては"目次"のようなものだった。そこから、第1章、第2章と展開していく。この2年で4つ、プレを入れると8つのコレクションを発表したわ。
- 「クロエ」の女性像にも変化がありました。自分らしい要素も取り入れましたか?
ええ。というのも、この仕事には正直に向き合う必要があると思うから。でも、だからといってブランドを作り変えるということではないの。革命というよりは進化ね。メゾンを進化させるには、私自身の考えやあり方を伴わないといけない。
- 具体的にはブランドにどのような変化をもたらした?
ストラクチャー、テーラード回帰のスーツ、そして少し強いアティチュードかしら。これは特に他の人からよく指摘されるの。洗練されていながら肩の力の抜けた、そういう美学を表現したわ。ソフトで強い女性ね。だって、ただソフトなだけでなんていられないから。両方必要なのよ。
- 「フェミニティ(女性性)」というテーマをアクセサリーやプリント、ディテールで表現されています。それは何故?
きっかけはギリシャ・キクラデス文明の人形だった。腿と胴体を象ったもので、就任当時から使っているわ。「クロエ」はとてもフェミニンなブランドだし、女性が"トーテム"のような象徴になるというアイディアが気に入ったの。お守りやラッキーチャームのような形で身につけられるから。十字架のように"女性"を身につけられたら素敵だと思った。アクセサリーやマッチ箱も作ったわ。今では定番のモチーフになったわね。同じようなタイプのメッセージは色々な形で取り入れていて、アクセサリーだったりプリントだったり刺繍だったり、シーズン毎に「フェミニティ」を探求しているの。
- 特にジュエリーに力を入れていらっしゃるようですね。
ええ、ジュエリーが好きなの!感情やメッセージを込められるアイテムだと思うわ。細かいことまで伝えられる。それに、コスチュームジュエリーだから手に取りやすい。値段も手頃よ。
- 他のアクセサリーについては?
ファッションはトータルで好きよ。靴も大事だと思うわ。前任のクレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)と比べると、ジュエリーとシューズにはより力を入れているんじゃないかしら。でもバッグもたくさん作っているわ。装飾品というコンセプトも好き。中でも靴は、アティチュードを決めるものよ。動きの力強さや、立ち姿の決め手でもあるし、前へ進むのも靴のおかげ。シルエットはここから始まるの。
- 一番のインスピレーション源は?
映画にはすごくインスパイアされるわ。広告キャンペーンもまずは動画を撮って、そこから切り取るの。自然な「クロエ」の女性像を表現するのにフィルムから出発するのよ。写真は洗練されているけれど、100%「クロエ」かというとそうでもない。映画は人物に奥行きを与えるし、洋服もよりスタイリッシュに見えるわ。だから、最終的には洋服そのものよりも着ている女性とその着こなしが重要になる。
- 「クロエ」で4シーズンが過ぎましたが、手応えはどうでしょう?
とても良いんじゃないかしら。私が違った視点を提案しているから、当然変化もある。顧客はメゾンのコードを再認識しないといけないわね。昔からの取引先もすべて残ってくれているし、「ドーバーストリートマーケット(Dover Street Market)」のように新規の卸先も開拓できた。
- 「クロエ」に就任した時点でのキャリアも申し分ないものでしたが、アーティスティックディレクターになるというのはまた違うものでしょうか?
まったく違うわ。当然とても名誉で喜ばしいことよ。でも、特に二つの点で違いを感じるの。一つ目は、自分で一緒に仕事する仲間を選べるというところ。仕事が気に入って一緒に働くうちに友達になる人もたくさんいる。そんな仲間でチームを作ることができるわ。それからもう一つは、私自身の名前を出して話せること。これは精神的なものね。
- 自分自身のものの見方が重要になって来るということでしょうか?
商品をデザインする、という作業は、「バレンシアガ」でも「ルイ・ヴィトン」でも二コラ・ジェスキエールのもとでやってきたわ。自信もある。でも、"語る"ということに慣れないの。今までしてこなかったことだから。今の時代、商品と同じくらい背景にあるストーリーも重要よ。なぜこのコレクションを作るに至ったか、それを説明しなければいけない。言葉を探して、考えて、意味を与え、文学的なリファレンスを探す。とても楽しい作業だわ。私の出発点や情熱を再発見できた気分。
- デザイナーという職業の進化をどのように見ていらっしゃいますか?
コレクション発表のリズムも商業的な目的も大きく変化したし、コミュニケーションのためのツールもずっと増えた。20年前と比べると、今の時代のアーティスティックディレクターは"デザイナー"としての側面が弱まったように思うの。昔はもっと商品に集中する時間があったわ。ファッションは20年前とは違う。今はアーティスティックディレクターが指揮者のような存在になっていると感じる。

- クリエーションだけに集中できた時代を恋しく思いますか?
いいえ。すべて任されるなんて素晴らしいことだわ。シューズもアイウェアも、どんなカテゴリの商品も大好きだから。それに、イメージを作り上げたり、ストーリーを語ったり、ショーのセットや音楽を考えるのも素敵な作業よ。
- 今日のラグジュアリーファションをどのように考えていますか?
何をすれば良いのか、皆迷っている気がする。でも、インパクトの強いものが売れる、というのはわかりやすい傾向だと思うわ。今は繊細だったり詩的なものが流行る時代じゃない。移り変わりの激しい現代にこそ、「クロエ」が居場所を見つけるべきなのよ。「クロエ」は柔らくてしなやか、軽やかなフェミニティを体現するブランドだから。
- SNSがその傾向を後押ししていると思います?
かもしれないわね。ぱっと目を引くビジュアルの必要性というのは、SNSによって余計に高まった。でも私はそれを面白い現象だと思っているの。ブランドはそれぞれ違ったアイデンティティを持っているし、それぞれの居場所もある。クリエイティビティに溢れた時代だわ。
- クリエイティビティと商業的な意識と、両者の理想のバランスは?
それを皆が探し求めているのよ!私は戦略やビジネスに充てる日と、スタジオに閉じこもる日、それぞれを予定に組み込んでいるの。
- プレッシャーは感じます?
皆そうでしょう。もちろんプレッシャーはあるわ。でも、プレッシャーに押しつぶされては何も作り上げることはできない。私はオープンな性格で、チームで仕事をするのが好きだし、ため込まないタイプなの。だからプレッシャーが過ぎたときには口にするわ。しっかりしていなきゃいけない。自分の限界を知っているから、私は強くいられるの。時には部屋に閉じこもって仕事に集中する必要もある。
- 「クロエ」での今後は?
上海でプレコレクションのショーをする予定。「ルイ・ヴィトン」や「ディオール」、「シャネル」のような大きなメゾンではないから、これを"クルーズ"と呼ぶ気はないの。いつも通り仕上げたプレコレクションよ。でも、中国の皆さんに向けた一大イベントとして発表したい。会場には私の大好きな場所を選んだわ。
- ファッションを志したのはいつのことですか?
思春期の頃かしら。自分の着るものを決めるのに、本能のようなものがあった。ファッションはずっと私の中に息づいていたんだと思う。けれど、それが何なのかよくわかっていなかった。最初はパリ大学でアフリカ史を学んだの。とても面白かったわ。そして旅行で3ヵ月マリで過ごしたんだけど、そこでよく考えてみてやっとはっきりわかった。ファッションをやるべきだってね。
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