2019/02/20
ロンドン ファッションウィーク総括:ロマンチシズムと先行き不安の狭間で
2019/02/20
ロンドン ファッションウィークが閉幕したが、ちょうど開催されていた2つの展覧会が両極に揺れる街のムードを象徴しているように感じられた。テート・ブリテンの中では、ラファエル前派の画家エドワード・バーン=ジョーンズによる幻想的な絵画と、一方で高名な戦場カメラマンであるドン・マッカランの写真が展示されている。

また、サーペンタインギャラリーでは「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」によるアーティスティックなイベントが開かれ、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)とニック・ナイト(Nick Knight)が制作した映像作品「Reality Inverse」を披露した。メタリック素材でできた服は、折ったり曲げたりすると色を変える。それをネガで撮影したイメージは夢幻のような美しさだった。
「ジョンが思いついた素材がテーマだったんだ。ネガで撮影するから、動くと面白い効果が得られる」とニック・ナイト。大きなスクリーンに映像を流す他にも、VRゴーグルをつけて体感する形で上映された。バックに流れるのはロイ・オービソンの「In Dreams」だ。
他に神秘的な美しさを表現していたのは、「メアリー・カトランズ(Mary Katrantzou)」のランウェイだろう。「Universal Pictures」と題されたコレクションは、古代ギリシアの自然哲学者エンペドクレスによる四元素説に着想を得ていた。

マラブーフェザーとチュールを使ったラッフルをあしらったコートは目を引いたが、大地の亀裂を捉えた写真をナイトガウンやレザーのジャケットにあしらったのはやや過剰にも思われる。実際、当日のカトランズは少し無理をしているようでもあった。
一方の「クリストファー・ケイン(Christopher Kane)」は、「Rubberist」や「Looner」といったメッセージを描いたトップスやコートを打ち出し、フェティッシュでビザールなコレクションを披露。ラバーやラテックス、プラスチック素材でできた洋服は面白くはあったものの、魅力的かというと疑問が残る。率直に言ってしまえば、ケリング(Kering)と袂を分かって以来彼はどこか精彩を欠く印象だ。危機を迎えていると言っても良い。

10年前には、ケインもカトランズもロンドンで期待の新人だった。しかし、新しい才能を生み出し続けている街が、業界のリーダーたちに影を落としている。
ロンドンでもう一人注目すべき人物がいるとすれば、「Fashion East」の創設者ルル・ケネディ(Lulu Kennedy)に他ならない。ANDAMやイエール(Hyères)、LVMHプライズといったコンテストと比べても、「Fashion East」ほど息の長い若手向けの機関は見つからないだろう。今シーズンは特に2組面白いデザイナーが出てきた。
「Gareth Wringhton」は、田園とディストピアを組み合わせたイメージを、ニットやブルゾン、カーディガンへ落とし込み、トラックパンツ風のストライプをあしらったトラウザーズと合わせた。全て良い出来で、ロンドンの相反するムードを上手く捉えているように思われた。ブレグジット後のイギリスや地球環境の問題など未来への深い恐れを抱きながら、それでも何か美しいものを模索している。

Charlotte KnowlesとAlexandre Arsenaultのデュオによる「Charlotte Knowles」のコレクションでは、スイムウェアやランジェリーに堅いテーラード、リクラなどをミックスしたハイブリッドなアイテムが揃った。前途有望なランウェイデビューだ。
とにかく、ロンドンはコントラストに富んだシーズンとなったことは間違いない。
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