2020/02/19
ロンドンFW総括:過去からの光
2020/02/19
デザイナーは未来を見るべきだという意見が主流ではあるが、今回のロンドン ファッションウィークほど過去に重きを置いたシーズンは類を見ない。

歴史的な要素を取り入れるデザイナーは常に一定数いるが、今シーズンは過去から着想を得たデザイナーが特に目立った。中でも、「プリーン バイ ソーントン ブレガッツィ(Preen By Thornton Bregazzi)」、「アーデム(Erdem)」、「JW アンダーソン(JW Anderson)」は際立っていた。
「アーデム」は、写真家セシル・ビートン(Ceci Beaton)にインスパイアされた「The Age of Siliver」コレクションを披露。現在ナショナルポートレートギャラリーでは初期ビートンの作品を集めた展示会『Bright Young Things』が開催されているが、そのキュレーターを務めたRobin Muirの協力を得たという。デザイナーのアーデム・モラリオグル(Erdem Moralioglu)は、見事にかつてのアングロサクソンの貴族文化を蘇らせ、それ以上のものを作り出してみせた。
パールを散りばめたマニッシュなブレザー、ブラックジャカードのスーツ、フリルたっぷりのフラッパードレスなど、多くのルックにフェザーをあしらっている。さらにドレーピングやギャザー使いのレベルも高く、オートクチュールと呼んでよいほどのディテールも見どころだった。
ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)も20年代にヒントを得た一人だ。また、「プリーン」は、1973年のサイコスリラー映画『赤い影』をインスピレーションに、チェックのジャケットやベニスの貴族風のシアトリカルなコスチュームを作り上げた。ジャスティン・ソーントン(Justin Thornton)とテア・ブレガッツィ(Thea Bregazzi)のデュオが送り出すブラックのラッフルドレスはレデントーレ祭もかくやというような華やかさで、ホワイトの聖母マリアのようなスモックトップスも目を引いた。アーガイルセーターとゴールドトーンの祭服スタイルを合わせたルックも素晴らしい。

フセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)はオーストラリア原住民のアボリジニ文化をファッショナブルに昇華しただけでなく、自身で作詞したオリジナルトラックを4曲も歌ってその多才ぶりを見せつけた。ドレーピングとダークでシアトリカルなスタイルは、優れたデザイナーであるチャラヤン自身の過去を改めて思い出させるものだった。
ロクサンダ・イリンシック(Roksanda Ilincic)は バングラデシュ系イギリス人アーティストのラナ・ベグム(Rana Begum)を招き、テキスタイルを用いた巨大なインスタレーション「No.976 Net」を展示した。会場となったのは外務・英連邦省内の一室で、1866年の美しい建築だ。巧みなカラーブロッキングや、ロウなアウターウェア、 レイヤードを繰り返すことで生まれるなだれ落ちるようなボリュームや、テクニカルなコットンタフタに筆のストロークが残るハンドペイントを施すなど、スリリングなコレクションに仕上がっていた。
ヨーロッパからやってきたイギリス在住者たちの多くは、ようやく滞在許可が降りたと当紙に話し、胸をなでおろしていた。セルビア出身のロクサンダ・イリンシックも同じ心地だろう。
そしてネットフリックスのドラマ「The Crown」の撮影場所でも知られるランカスター・ハウスでは、アイルランド人のシモーン・ロシャ(Simon Rocha)が洗礼服の要素を取り入れた美しいドレスを披露した。スモックとアランセーターなども魅力的で、詩的なやり方で自分自身の歩んできた道を踏襲しているような印象だった。

ベテラン勢も忘れてはいけないが、特に今シーズンは、74歳のポール・コステロ(Pauk Costelloe)がウォルドルフホテルのボールルームで洗練のショーを見せてくれた。
ガラス細工を思わせる色使いのグラフィックをプリントしたボディスーツやレギンスが 主役となり、それにツイードやファインウールのコートを合わせたルックは非常に良く出来ていた。
大ぶりの飾り襟やパフスリーブなど、イブニングウェアを中心にややボリュームを出し過ぎていた感もあるが、それがファンの喜ぶところだろう。フィナーレに登場したコステロはスタンディングオベーションで迎えられた。今シーズン一番の拍手だったと記憶している。
不許複製・禁無断転載
© 2023 FashionNetwork.com