2019/09/17
ロンドンFW総括:EU脱退が迫る英国、"神聖"と"冒涜"の狭間で
2019/09/17
今シーズンのロンドン ファッションウィークは、"聖なるもの"と"冒涜的なもの"の間で揺れ動くものとなった。

エレガントでエレジアックなショーを見せたのは、「ロクサンダ(Roksanda)」、「アーデム(Erdem)」、「リチャード・クイン(Richard Quinn)」。
もう一つの陣営は、"異教"的な伝統とアーティーなデカダンスをミックスしアイルランドの伝統儀式を取り入れた「シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)」や、「Steve O Smith」などが挙げられる。
やはりブレグジットが落とす影は大きく、ロンドンの街全体のムードにも影響していた。
すべてのファッション関係者が政治と距離を置いているわけではない。例えば、素晴らしいショーを見せてくれた「リチャード・マローン(Richard Malone)」も、この動きに触発された一人だ。この縫い目をあえて表に出した見事なテーラードにパイレーツブーツを合わせたり、シルクのギャザードレスやミニマルなユサールジャケットといったルックを、様々な人種のモデルが纏った。中にはヒジャブを使ったスタイリングも。

大きな拍手に迎えられた姿を見せたマローンは、「F**k Boris」とのメッセージが描かれたTシャツを着ている。
移民に対する恐怖心もEU反対派を動かしている一因だが、ロンドンのランウェイにはそれでもヒジャブが溢れている。「バーバリー(Burberry)」の会場にも多数ヒジャブ姿があった。
今回の目玉となったのは9月16日だが、まずはサーペンタイン・ギャラリーで行われた「ロクサンダ」のショーで始まった。

オープニングのルックはテーラードアイテムで構成され、グレーのマットなサテンやジャージ素材、キャラコ生地のレインコートやチュニックなど、冷たい雨模様のロンドンにはぴったりだ。ホワイトやライトグレーといったカラーパレットも曇天にマッチしている。
それにラッフルドレスや、アブストラクトなプリントのファンタジックなガウンドレスが続く。ロンドンでも指折りの繊細な感性を持つデザイナーによる、しっかりと地に足のついたショーだった。
「アーデム」は、イタリア出身の写真家ティナ・モドッティ(Tina Modotti)に捧げたコレクションで、ロマンチックなムードを貫いた。モドッティはハリウッドのサイレント映画に出演してスターになった後、フォトグラファー・政治活動家に転身した。「アーデム」では、彼女が愛用していたマニッシュなオーバーオールではなく、その代わりに実験的なヴィクトリアンスタイルのドレスを提案。ミリタリーの要素やメキシカンハットなどをさり気なくミックスした。

そして今季のクライマックスとも呼べるのが「リチャード・クイン」のショーだった。演出も大掛かりで、エドワード朝スタイルのボールルームに本物のオーケストラとコーラスを呼んだ。
「エリザベス2世ブリティッシュデザインアワード(Queen Elizabeth II Award for British Design)」の初代受賞者でもあるクインだが、確かにファッション史に関する膨大な知識を有しているようだ。エキゾチックなイブニングドレスは、ブラックのラテックス製ソックスブーツでモダンにアップデートされている。歴史的な言及があからさまに過ぎるきらいもあるが、それでも非常に美しいルックの数々を目にすることができた。
「ヴィクター&ロルフ(Viktor & Rolf)」や「ジェレミー・スコット(Jeremy Scotto)」のような母国のファッション史をコンセプチュアルに昇華するニッチなブランドになるのか、それとも「ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)」や「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)」のような影響力のあるメゾンになるのか、行く末が期待される。

新進デザイナーでは、「スティーブ オー スミス」が注目を集めた。ユニークな視点のファッションは一見に値する。
ウィンブルドン生まれのスミスは、アメリカのロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(Rhode Island School of Design)(RISD)で学んだ。
「Garden Path」と名付けられた今回のコレクションではひねりのきいた"デビュタント"ドレスがを提案したが、ラッフルドレスやローズモチーフのフロックドレスなどが目を引いた。
「失敗した金曜の夜がやりたかった」と話すデザイナー。図らずも今日のブレグジットの有様を要約しているかのようだった。
不許複製・禁無断転載
© 2023 FashionNetwork.com