2019/02/27
パリ ファッションウィーク:「ディオール」の英国風ロマンス
2019/02/27
クリスチャン・ディオール(Christian Dior)ほど英国を愛したフランス人クチュリエは他にいないだろう。今シーズンの「ディオール」は、彼のイタリア人後継者マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)がテディガールスタイルを披露してみせた。

「ディオール」の女性性と、現代のフェミニスト芸術家、そして50年代戦後の英国にいた力強い女性が出会ったコレクションだった。
「Christian Dior: Designer of Dreams(クリスチャン・ディオール:夢のクチュリエ)」展が現在はロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催されているが、その中ではムッシュ・ディオールの英国愛をテーマにした展示室も用意されている。1951年、マーガレット王女が21歳の誕生日に着たドレスは特に有名で、セシル・ビートン(Cecil Beaton)が写真に収めている。
「マーガレット王女は反骨精神のある方だった。当時イギリス人デザイナーではなくあえてディオールを選んだんですもの。そこから着想を得たの」とキウリはショーの前に語った。
コレクションは、「ディオール」というメゾンのコードと、現代的なテキスタイル、それに50年代の要素が混ざったものに仕上がっていた。ディープレッドとグリーンのタータンチェックは、映画『テディガール(Teddy Girls)』でも好んで用いられていたモチーフだ。しかし、使っている素材や加工はハイテクで、同素材のドレスと組み合わせて提案した。また、ハットも豊富で、すべて「D」のロゴがあしらわれている。
また、 "バー"ジャケットはよりマスキュランなモデルにアップデート。チェックや、「ディオール」グレイ、それにダークグレイのデニムなどでも仕立てていた。クレバーなアングロサクソン的ツイストは、レッドのタータンスカートと「Sisterhood is Powerful」のメッセージが描かれたTシャツとのスタイリングにも表れている。

マリア・グラツィア・キウリはロンドンにアパートも所有しており、同地と縁が深い。また、彼女の娘もロンドンでファインアートを学んでいた。
内装はやはりアレックス・ドゥ・ベタック(Alex de Betak)が手掛け、白いテントをイタリア人アーティストTomaso Bingaによるドラマティックなイメージで覆った。Bingaは、特に自身がヌードでアルファベットの形のポーズをとった作品で知られるが、今回はもちろん「DIOR」が会場の正面に掲げられている。
イブニングウェアでは、クラシックな「ディオール」らしいシルエットのドレスを提案したが、今シーズンはテッキーなタフタを素材に用いた。
非常に印象深いショーではあったが、やや繰り返しが多いとも感じた。ミッドカーフレングスのスカートは10型以上登場している。とはいえ、フェミニストな要素を取り入れた現代的なファッションに商業的な感覚を盛り込んだコレクションは、キウリの実力を遺憾なく発揮したものになった。

「今までの中でも一番の出来だ。メゾンのデザイナーとして本当に大きく成長ていると感じるよ」とLVMHグループのベルナール・アルノー(Bernard Arnault)会長兼CEO。
小物としては、特にサドルバッグ風のベルトが目についた。他にも、ブラックのレザージャケットは、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)が「ディオール」で最後に手掛けたコレクションへの言及だろう。
「私自身を『クリスチャン・ディオール』のクチュリエだと思ったことはないわ。例えば、『レディ・ディオール』バッグを考案したのがジャンフランコ・フェレ(Gianfranco Ferré)だってことを覚えている人も少ないんじゃないかしら。『ディオール』は、何百万という人々の頭や記憶と結びついているブランドで、一人ひとりのデザイナーからは独立して存在していると思う。だから、私はデザイナーというよりも、ユニークで偉大なメゾンの"キュレーター"だという意識でいるわね」とキウリは話した。
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