2020/01/26
パリ クチュール総括:影、スピリチュアル、クラシカル
2020/01/26
ファッションは時代を映すと言われているが、オーストラリアの火災から中東の緊張、フランスのストライキまで、明るいとは言えない世界情勢がオートクチュールのコレクションにも影を落としていた。

しかし何と言っても、今シーズンの目玉はジャン=ポール・ゴルチエ(Jean-Paul Gaultier)最後のショーだろう。半世紀にも及ぶキャリアと、ファッションにおける一つの時代を締めくくった。
また、女性のエンパワーメントや女性クチュリエの活躍も目立った。シルエットはラディカルにボリュームを削ぎ落としたものが主流で、クラシカルなフォルムも復活。「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)」では、古代ギリシャの女神を思わせるルックが揃った。

「女神はどこにでもいるわ。芸術にも生活の中にもね。ファッションだってもちろん同じ」と「クリスチャン・ディオール」のクリエイティブディレクター、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)。
フェミニズムとクラシシズムが共存するコレクションは、女性の胸像を象ったテントの中で披露された。「Female Devine(女性の神)」と題された作品は、アメリカのフェミニストアーティスト、ジュディ・シカゴ(Judy Chicago)のものだ。

「シャネル(Chanel)」では、ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)」はキリスト教のスピリチュアリティを取り入れた。ココ・シャネル(Coco Chanel)が少女時代を過ごしたオバジーンの修道院に着想を得たものだ。
コレクションはストイックながら美しく仕上がっており、膝上丈のチェックのスーツにはエナメルのシューズにホワイトソックスとスクールガール風の足元を合わせたほか、ダークグレーのウールのドレスには修道女のようなスカプラリオをあしらっていた。ジジ・ハディッド(Gigi Hadid)の纏うスリットの入ったブラックのベルトドレスは、修道院長の風格がある。

クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)手掛ける「ジバンシィ(Givenchy)」は、女性のエンパワーメントをロマンティックに表現してみせた。大胆にフラワーを取り入れたコレクションのインスピレーション源となったのは、イギリスの名園シシングハーストだ。庭の美しさもさることながら、そこにはヴィタ・サックヴィル=ウェスト(Vita Sackville-West)とヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)という二人の女性の愛情がある。
「ヴァレンティノ(Valentino)」のピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)は素晴らしい色使いのファイユを見事に波打たせ、50年代の映画スターやミッドセンチュリーのイタリアのソーシャライトたちを彷彿とさせるルックを披露した。

「スキャパレリ(Schiaparelli)」のロマンティックなシュールレアリズムや、「エリー・サーブ(Elie Saab)」のインペリアルなメキシカンコレクション、「アルマーニ プリヴェ(Armani Privé)のエスニックなショーも印象深かった。

一方で、若手デザイナーたちはエクスペリメンタルなファッションで伝統的なクチュールに挑んでいる。
中里唯馬による「ユイマナカザト(Yuima Nakazato)」は、スパイバーが開発した人工合成タンパク質の画期的な素材「ブリュード・プロテイン(Brewed Protein)」を全ルックに取り入れた。手塚治虫の「火の鳥」にインスパイアされたコレクションは、アコーディオンプリーツで作る幻想的なシルエットとフェニックスを思わせるヘッドギアが目を引いた。

「Aelis」のソフィア・クロチャーニ(Sofia Crociani)も、クラシカルなモチーフを素材の組み合わせでクリエイティブに表現し、クチュールの醍醐味である実験的なファッションを見せた。
しかし、先に述べた通り今シーズンの主役はやはりゴルチエだ。1500人の招待客に向け250ものルックを披露し、盛大なショーで有終の美を飾った。
不許複製・禁無断転載
© 2023 FashionNetwork.com