2019/01/21
パリ クチュール:「クリスチャン・ディオール」のサーカス
2019/01/21
新しいオートクチュールの女王の座は、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)のものになりそうだ。サーカスにインスパイアされた「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)」クチュールのショーは、非常に印象深いものだった。

ロダン美術館の庭に設置された大きなテントの中、サーカス特有の魔法、ミステリー、ドラマが全てのルックに詰め込まれていた。
彼女の出発点は、まずリチャード・アヴェドンの有名な写真だった。「クリスチャン・ディオール」のドレスを纏い、パリの老舗サーカス「シルク・ディヴェール」の中で象と写真に納まるDovimaの姿だ。また、そこから発展して、フェリーニの映画やピカソの「バラ色の時代」、そしてセルゲイ・ディアギレフのバレエ団からの影響も取り入れた。
キウリがアトリエを巧みに束ねているという証は、複雑な技術や素晴らしいエンブロイダリーにも表れている。刺繍はフランスのメゾン「Hurel」が手掛けており、ピンクのドレスには細かなクリスタルが飛び散ったようにあしらわれていた。
「ファンタジックでクリエイティブで、カオス。サーカスは様々なアーティストをインスパイアしてきた。その広がりは計り知れないわ」とキウリ。ジャン・コクトーの台本によるバレエ作品『パラード』にも言及した。
今回のショーにはロンドンのアヴァンギャルドなサーカス団「Mimbre」のメンバーも登場したが、顔ぶれは全員女性とキウリのフェミニストな一面が感じられる。素晴らしいカッティングのテールコートとセーラーカラーのシフォンシャツを組み合わせたルックも目を引いた。

ピーター・フィリップス(Peter Philips)が道化師のような涙のメイクを施したモデルは皆フレッシュながら自信のある足取りで、キャスティング担当のミッシェル・リー(Michelle Lee)の手腕が感じられた。Bureau Betakによる内装に、ミッシェル・ゴベール(Michel Gaubert)がスティーヴ・ライヒ(Steve Reich)にフィーチャーした音楽も完璧で、全てのチームが一丸となって仕事をしたことが伝わってくる。
「現代のファッションは変化している。私にとって、クチュールは軽やかでなくてはならないもの。それに、ドレスは女性の人格を反映すべきだし、一定のアティチュードをもって作られていなくてはならないわ」とキウリは話した。
幾重にも重ねたリブケージドレスなど、時折やや直球に過ぎる表現もありはしたが、全体としては素晴らしい出来のショーだった。ゴールデンストライプのプリーツドレスやスパンコールを刺繍したオーガンジーのプレイスーツなど、コレクションは後半に向けてクレッシェンドを描き盛り上がっていく。フィナーレには、厳しい招待客からも上々の反応があった。
キウリのイマジネーションと献身的なアトリエの仕事、そして真面目なチームに、少しばかりサーカスの魔法を加えたこのショーは、大成功を収めた。世界でほんの一握りしかいない富裕層がなぜパリのクチュールに詰めかけるのか。その答えはまさにここにある。
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