2019/07/02
パリ クチュール:「シャネル」、セクシーでシックな図書館ルック
2019/07/02
「シャネル(Chanel)」クチュールの新しい女性像は、浮ついたものを嫌い、ランウェイでも眼鏡を手放さないような頭脳派のようだ。

5月のクルーズから数えて2度目、クチュールとしては初めてとなるヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)のコレクションは、図書館を模したセットの中で行われた。会場はブランド御用達のグランパレだ。
エレガントなクッションつきの客席には、マーゴット・ロビーをはじめ名だたるセレブリティが揃っていた。
オープニングのルックはどれもエレガントで、ツイードで仕立てた素晴らしいカッティングのコートやコートドレスにはサイドにスリットを入れて大ぶりのパールボタンをあしらった。他にも、マトンスリーブのジャケットにミニ丈のスカートを合わせたスーツスタイルが続く。
こうしたシルエットからもすでにヴィアールの腕が窺える。何十年とカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の右腕を務めていた彼女は、「シャネル」のDNAを知り尽くしているようだ。
イブニングウェアとしては、白黒チェックのカラムドレスを提案。ネックラインにラッフルをあしらったマドモワゼル・シャネル風のものも見られた。また、ダブルのジャケットがフロアレングスのスカートに繋がる真っ赤なドレスや、タキシードドレスも目を引く。

真摯に仕立てられたアイテムはどれも素晴らしいものだったが、少しばかり真面目過ぎる感も否めない。
バックに流れるPortishheadが「Give me the reason to love you(あなたを愛する理由をちょうだい)」と歌うと、観客の心もそれにシンクロするようだった。
ファッションとしては非常によく出来ていたものの、昔のような魔法は感じられない。
クラシックな文学作品のコピーを何全冊も並べたセットにも目を見張った。しかし、もしこれがカール・ラガーフェルドであったなら、ココ・シャネルの自伝のフェイクでも並べたのではないだろうか、との考えも頭をよぎる。本棚の下に置かれた物寂しい猫足のソファからシンプルなインビテーションまで、本当に小さいことではあるが、細部が抜け落ちているのだ。さらに、あのロゴたちはどこに行ってしまったのかという疑問も禁じ得ない。
「シャネル」は経済的にも潤っているし、寛大なメゾンだ。それがヴァネッサ・パラディの友人や家族を招いたプライベートコンサートを行うとなると、またしても違和感を覚えてしまうのは致し方ないことだろう。会場に入ってドリンクチケットを手渡されたゲストの中には、「とんでもない!」とフランス人らしく眉を顰めるエディターもいた。

「シャネル」のように本物の偉大なメゾンというものは、夢を売るのが商売だと自覚している。人生を変えてしまうような美しい商品を売る語り手なのだ。しかし同時に、パリのどのクチュールメゾンもそうであるように、金を稼ぐ道具でもある。今回のコレクションは洗練されているし、商業的にも成功するだろうことは疑いようがない。
ヴィアールは大きな拍手の中で姿を現した。オーナーのアラン&ジェラール・ヴェルテメール(Alain & Gérard Wertheimer)兄弟もこの時ばかりは大っぴらに喝采を送っていた。
ただ、長期的にメゾンの将来を考えた時にはやはりいくつか疑問が残る。偉大なデザイナーが去れば、後継にのしかかる重みは計り知れない。サッカーチームのようなものだが、ヴィアールがどういうポジションに収まるのかは未知数だ。
不許複製・禁無断転載
© 2023 FashionNetwork.com