2020/03/03
パリFW:「サカイ」の四次元シック
2020/03/03
巧みなパターンで叶えるハイブリッドスタイルで右に出る者のいない「サカイ(Sacai)」だが、今シーズンのテクニックは次元を超え、デザイナーの阿部千登勢はついに「4次元」のファッションを考え出した。メンズ・レディースのクラシックでフォーマルなコードを自在に取り入れ、アーティなエッジの効いたタウンウェアに昇華している。

暗闇の中にいくつものスポットライトが散るキャットウォークには、どこかフューチャリスティックなムードが漂う。オープニングには、ブラウンを基調としたタキシードベースのドッキングウェアが登場。ジャケットの後ろと側面だけを伸ばしたようなフルレングスのウールコートや、やはり床を擦るようなサテンのドレッシィなコートなど、マスキュリンとフェミニンをミックスしたエレガントなアイテムが続いたが、前から見るとかっちりとしたテーラードシルエットも、モデルが歩くたびに側面や後ろに隠れたパネルが広がりドラマティックなボリュームを形作った。
一見上下に分かれたセットアップにも見えるパーツを組み合わせてコートやドレスに仕立てるテクニックは様々なルックで見られ、MA-1ブルゾンやダウンジャケットといったスポーティなアイテムも、下に長く流れる裾と側面に挟み込んだオーガンジーのプリーツによる広がりで、シックなロングコートへと変身していた。
カジュアルなノルディックセーターのパターンも、敢えてジャカードベルベットに落とし込むことでエレガントな仕上がりに。また、服に取り付けたパールやビジューネックレス風のディテールも捻りを効かせたレディスタイルを演出する。
今までになくエレガントでドレッシィなコレクションだが、あくまでも「街で着られるものにしたかった」と阿部千登勢デザイナー。メンズのテーラードとウィメンズのクチュールに、スポーツやカジュアルの要素をドッキングすることで、デイタイムにもイブニングにも対応できる「サカイ」らしい"フォーマル"を提案してみせた。「着られるものとのそのぎりぎりのせめぎ合いが『サカイ』だと思う」と話す通り、動きが生み出す「四次元」のシルエットで新しいジャンルを開拓している。

ブラック、ホワイト、ブラウン、カーキなどニュートラルなカラーを基調に、プリントアイテムの数はそれほど多くない印象だったが、中でもNASAの宇宙画像と、ミッドセンチュリーの建築家・プロダクトデザイナーであるアレキサンダー・ジラード(Alexander Girard)によるモチーフが目を引いた。
「四次元」というテーマに呼応すると選んだ宇宙の写真は、NASAによる6000枚もの画像から阿部千登勢が厳選したものだという。ハイネックのロングドレスやトップ、ブルゾンをベースにしたオーガンジーのコートに落とし込んでいた。
また、アレキサンダー・ジラードのタイポグラフィー作品は今回のコレクションのため特別にオリジナルの配色でリデザインしたものになる。「ハッピーなもの」と結びつくジラードの作品でポジティブなアティチュードを表現したという阿部デザイナー。
新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大する現在、パリのファッションウィークにも大きな影響が出ている。ショーを中止するブランドもあるなか、「心配はしていたけれど、皆も協力してくれた。やってよかった」と充実した笑顔を見せた。
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