2019/09/12
NYFW:"あの日"に挑む「マーク ジェイコブス」
2019/09/12
アメリカ中を探しても、「マーク ジェイコブス(Marc Jacobs)」ほど911の悲劇に"近かった"ブランドは他にないだろう。「マーク ジェイコブス」は事件の前日に当たる2001年9月10日、ワールドトレードセンターにほど近い会場でコレクションを発表していた。

そしてパーク街を舞台に行った今シーズンのランウェイショーでは、オプティミズムと自信でもってあの悲劇へのメッセージを発信した。
「デヴィッド・リヴァースをはじめ、その他の多くの偉大な友人たちが帰らぬ人となりました。今年で18年が経ちますが、決してあの日を忘れることはありません。このショーは、人生、喜び、平等、個人、オプティミズム、幸福、寛容さ、夢、そしてまだ見ぬ未来を祝福するものです。我々は自らの過去やファッションの歴史から学び続けます」とプログラムに記したマーク・ジェイコブス。友人だったデヴィッド・リヴァースは、当時ワールドトレードセンターのルーフトップレストランでカンファレンスを開いていた。
コレクションには、ケネディ時代の絢爛さや60年代のロッククイーン、往年の大女優ドリス・デイ、カーナビーストリート風のクールなど、様々な歴史的リファレンスに溢れていた。古着屋で見つけたものをリメイクしているとの批判を受けることもあるマーク・ジェイコブスだが、今回発表した55ルックはすべて彼独自のイマジネーションでミックスされていた。
巨大なチュールのバブルドレス、「マイ・フェア・レディ」風のドレス、イヴ・サンローランスタイルのパンツスーツ、ジャニス・ジョプリンを思わせるベルベットのフローラルジャケット、コンパクトなライディングジャケットとミニハットを合わせたスタイリングに、ゴールドのドレス、ライラックのレザートレンチなどエクレクティックなルックが目を引いた。多くがクローシェ、カウボーイハット、フェドラといったハットをオーバーサイズで仕立てたものを合わせている。

サウンドトラックもノスタルジックで、ママス&パパスの「私の小さな夢」がバックに流れていた。
ファッション史やクラシックへの言及がこのコレクションの良さでもあり、同時に弱点でもある。あまり目新しさがあったとは言えず、レトロというところに落ち着いてしまった。さらにプログラムを読み進めたなら、少しばかり気難しい調子に変化していくのが見て取れるはずだ。「カールの才能」や「我々の自然なデータセンターである脳」を称え、「インターネットの一時的なアーカイブ」や「尽きることのないデジタルインフルエンサーの海」といったものを嘆いている。
最後に現れたマーク・ジェイコブスは、プラットフォームブーツにシャネル(Chanel)オマージュのウールツイードジャケットを纏っていた。

2001年の「マーク ジェイコブス」のランウェイショーは、喜びにあふれた最高の宴だった。ハドソン川の「Pier 54」で何百人もが躍り、消防隊の協力で空には水が噴射された。南にあるワールドトレードセンターは美しく光り輝き、あたかもこのイベントを祝福しているかのようだった。
そのわずか8時間後には祭りのムードも消し飛んだが、テロが我々が生きる世界を永久に変えることなどできないのだ。
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