2019/03/07
パリ ファッションウィーク:「ビューティフルピープル」、"内面"とリンクする服
2019/03/07
静かな場所でそっと耳をすませば聞こえてくる、鼓動や血流。「ビューティフルピープル(Beautiful People)」がパリで発表した最新コレクションは、当たり前のように存在しながら普段は意識することのない"内面"に目を向け、衣服の構造に関するクリエイティブな発想を、繊細で詩的、洗練されたワードローブに昇華してみせた。
パリの高等美術院内の会場には神秘的な靄が薄っすらとかかり、どこかノスタルジックなピアノの音色と共にショーは幕を開けた。オープニングはタートルネックに端正なロングコートというオールブラックのスタイリングだったが、その胸から飛び出したようなハートの立体的なアクセサリーが斜め掛けされている。その後はグレー、ブラウンと続き、少しずつベージュやエクリュといった明るいトーンに移行していくが、すべて流れるようなシルエットと長いレングス、そして肌に貼りついたり肌を透かしたり、中の"体"を見せる要素が目を引いた。特に、ニットの上に重ねたエアリーなジャンパースカートや、体にぴったりと貼りつくレギンスやボディスーツに描かれたプリントは、ボタニカルでありながら血管や臓器を意識させる有機的な柄がどこかセンシュアルだ。
鼓動が早まるように静かに加速していく音楽と共に、後半はまたブラウンを中心としたダークカラーを中心に重めのアウターが登場。ケープの意外なところから下のシャツと思しきチェックの生地がはみ出していたり、セクシーなサテンのトップスに尾錠がついていたり、あるいはモッズ風コートの中に着たドレスがキルティングだったり、目を凝らしてみると見慣れているようで見慣れないディテールに気付く。
先シーズンからのテクニック「Side C」を引き続き探求し、表と裏との間にある「第三の空間」を利用した熊切は、洋服の構造自体がスタイリングの一部になるような多様な着方を提案している。
例えば、ベージュチェックのガウンコートはソフトなウールのリバーシブル生地でできており、一見すると一重仕立てに見えるが、前を開くとノースリーブドレスの形の"裏地"がついている。その間に体を通せばガウンと一体になったドレスになるし、もちろん普通のコートとしても着られるほか、袖の下から手をだしてケープにしたり、ドレスのサイドを外して表に出せばフロントが互い違いになったコートとして別の表情を楽しむこともできる。まるでエッシャーのだまし絵のように内と外が繋がり合う構造だが、あくまでも佇まいは端正だ。レッグウォーマーもヒールに穴を開けることでシューズと一体化するように出来ていて、裏地と表地、服と体、すべてが一つになる感覚が面白い。
「普段隠れているもの」を丁寧にすくい上げ、洗練された衣服に落とし込んだ熊切秀典デザイナー。東京ファッションウィークでも新たにショーを行う予定だ。
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